サハラノコト

好きなことを探して生きていく

深煎りコーヒーが好きになった話

私が1番長く続けている習慣は「コーヒーを淹れること」。と、いうかこれくらいしかないかもしれません。でも、生活の中にコーヒーはなくてはならない存在です。

コーヒーにハマった理由はわかりませんが、小学生の頃からなぜかコーヒーに惹かれていました。遅くまで勉強をしているときや寝不足の朝に雑な飲み方をしていた時期を経て、一人暮らしを始めてからはいろんな珈琲屋さんや喫茶店、カフェにも通うようになり、この頃から豆を買って自分で淹れるようになりました。

 

コーヒーにまつわる名言

さて、お酒については落語家の立川談志さんの「酒が人間をダメにするんじゃない。人間はもともとダメだということを教えてくれるものだ」、カレーについては「カレーは飲みもの」とか身近な飲みものについての名言はときに深いものがあります。

コーヒーも然り。

コーヒーは自分でいれるより、人にいれてもらう方がうまいんだ。

出典:映画『かもめ食堂

群ようこさんの小説『かもめ食堂』は映画もすごく素敵です。北欧ブームのきっかけともいわれていますね。

千のキスよりすばらしく、マスカットぶどう酒より甘い。コーヒー、コーヒーはやめられない。

ヨハン・セバスチャン・バッハ

一杯のコーヒーはインスピレーションを与え、一杯のブランデーは苦悩を取り除く

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン

昔からコーヒーは魅惑的な存在だったのですね。

私が加えたいコーヒーの名言

そしてもうひとつ、個人的に加えたい言葉があります。『しあわせのパン』という小説に出てくる”Cafeマーニ”の店主りえさんの言葉です。深煎りコーヒーを好きになるきっかけを作ってくれました。

濃いコーヒーはおなかにどんっと力をくれますよ

出典:三島由紀子『しあわせのパン』

浅煎りの爽やかな酸味とフルーティな感じは空も空気も軽い日にはぴったりです。中煎りはもっともポピュラーで安定感のある印象。そして、おなかにどんっと力をくれる。これって深煎りやっぱり深煎りのイメージです。

トロリとした温かくて黒い液体がお腹をじんわりとあたためてくれる。そうしたら心が落ち着いて、ちょっとずつ活力が湧いてくような気がします。

物語の描写も素敵で「深煎りコーヒーっていいな」って心底思いました。その頃はまだ本州に住んでいて北海道に来たことがなかったので想像だけでしたが、深煎りコーヒーに対しての印象がガラリと変わりました。おかげで優劣つけることなくそれぞれの良さを感じられるようになりました。素敵な小説を書いてくれた作者の三島由紀子さんに感謝です。

『しあわせのパン』あらすじ

りえさんと水縞くん、ふたりが北海道月浦で営む”Cafeマーニ”を舞台とした物語。月浦は洞爺湖のほとりにある町です。湖のそばで月がきれいに見えます。穏やかな中に凛とした空気感が心地いい。人生に悩むまざまなお客さんがお店を訪れ、静かなマーニで自分と向き合う時間を過ごします。

揺れる心をそっと支えるのはりえさんの温かいコーヒーと季節の野菜を使った美味しい料理、そして水縞くんが焼く素朴で素材の味が生きたパン。みんなでテーブルを囲みます。そうして、ぶつかっている問題にまっすぐ向き合って、心が少しずつほぐれて、それぞれが一歩踏み出します。

偏愛からの卒業

以前は浅煎りをおいしく淹れてくれるお店を好んで通っていました。私がコーヒーに目覚めたとき、ちょうどサードウェーブの影響が日本にも広がってきていたときだったからかもしれません。浅煎りで豆の果実味を味わう的な、それが1番みたいに思っていたときもあったのです。ちょっとわかったフリをして生意気でしたね。

でも先にも書きましたが、『しあわせのパン』を読んでなんだか衝撃を受けてしまったのです。他の場面でも深煎りコーヒーが出てくるシーンがあって、北海道の喫茶店で寒い冬に深煎りコーヒーとクロワッサンを食べるとか、りえさんが秋のブレンドを作るシーンとか…。「北海道×深煎りコーヒー」という設定にすっかり打たれてしまったのです。

北海道の深煎りコーヒー

北海道では事実、深煎りが1番売れるそうです。きっと気候にあっているのでしょうね。サードウェーブの火付け役となったブルーボトルコーヒーアメリカのオークランド(サンフランシスコの近く)が発祥ですし、国内でも東京や神戸、京都を中心に展開されています。温暖な土地には軽やかなもの、寒冷な土地には落ち着いたものが合うと考えると納得ですね。

北海道の深煎りコーヒーを楽しめるお店

www.morihico.com

札幌市にある森彦(MORIHIKO)本店がおすすめ。駅前や歓楽街からは離れた裏路地にある木造古民家を改装したお店です。くすんだ赤い屋根と壁に絡まった蔦、周りを囲む背の高い木々。物語に出てきそうな雰囲気です。内装はオーナーさんたち自身で整えたそうでアンティークの家具や古道具が大事に飾られています。窓からは優しい光が差し込み、軋む2階への階段の音も間接照明の灯る静かな店内では心地よい生活音となります。

本店でのみ味わえる森の雫ブレンドはこっくりとした深煎り。りえさんが淹れてくれる深煎りもこんな感じかなあとひとりで妄想にふけります。あたためられた器の、ぽってりとした丸みと口当たりを両手ですっぽり包んで楽しみます。まるで「ゆっくりしていってくださいね」といってくれているような一杯。

MORIHIKOは札幌市内を中心にいくつも店舗があるのですが、それぞれ個性があるので訪れる楽しみもあります。

最後に

『しあわせのパン』は悩みを抱えた登場人物たちの言葉は、人生にもがいているときにそっと支えてくれるようです。また、作中でりえさんの作る優しいお料理は、想像するだけでも癒されるので、落ち込んでいた時期もこの本をパラパラとずっと眺めていました。読んでいるとじんわり胸が温かくなるような物語なので、自分に自信がない人や周りとの関係に悩んでいる人にもおすすめできる1冊です。

優しい本と濃いめのコーヒーで整えて力をたくわえていきたいですね。